よこやま通信 NO.203
爽やかな五月晴れが楽しみな、寒からず暑からずの良い季節がやってきました。院長の穣です。私にとって五月とはここ10年程、花粉症の体調不良からようやく解放され、ほっと一息つける、そんな癒しの季節になっています。しかし今年の花粉は強力でしたね。久しぶりにしんどい春でした(泣)岸田首相が国策として花粉症対策に力を入れてくださるとのことですから、是非とも期待したいです。
3月、4月は春休みということもあり、お子様方にも多くご来院頂きました。その際、例年よりもご相談が多かった、小帯の異常について良い機会ですので紙面をお借りしてご報告させていただきます。舌小帯(ぜっしょうたい)というのは舌の下面と、下の前歯の付け根に通じる粘膜で、この小帯が短かったり舌の先端までついていたりするのを舌小帯短縮症(舌小帯委縮症、舌強直症)といいます。
東京医科歯科大学の小児歯科学教室の先生方が非常に分かりやすく、現在における舌小帯短縮症の考え方の対応についてまとめてくださっていますので一部をご紹介いたします。
かつて舌小帯短縮症は母乳育児の推進のために手術の対象とされていましたが、その医学的根拠は無く、舌小帯の手術は行われなくなっております。新生児および乳児の哺乳障害の主たる原因になるとは考えられていないようです。
したがって、この時期に遭遇する舌小帯短縮症は哺乳障害とは関係がなく、手術を行う必要はありません。
日本語では発音する時に、舌の先端を上顎の前歯の裏側に接触させるものがあり、これらは歯音や歯茎音と呼ばれています。具体的にはタ行の一部(タ、テ、ト、ダ、デ、ド)とナ行が歯音で、ラ行が歯茎音と言われています。舌小帯短縮症では舌の運動障害の程度によってこれらの発音が曖昧になり同様に英語では、I、r、th等の発音が曖昧になります。ところが、舌小帯短縮症の小児のうちで構音障害を認めた患児への言語治療では、3歳代で機能訓練を開始し、構音機能の発達完了期の5歳時に治療効果を判定し、その結果から手術の要否を判断しても機能は十分回復するとの報告が複数あり、構音障害のために早期(2~4歳)に手術をする必要性はないとされています。
一方、固形物を食べる時は先ず前歯で切断し、口に入った食片を上下の奥歯で噛みつぶし、唾液と混ぜて燕下します。口に入った食片を噛みつぶすにはそれらを上下の奥歯の間に移動させて、ほんの少しの間保持しなくてはなりません。この時、舌と頬、顎の協調運動が必要であり、それぞれの器官の何らかに運動制限があると摂食機能障害の可能性があります。舌小帯短縮機能では舌の運動制限が生じることから、その程度によっては協調運動に乱れが生じ、食片をこぼすといった問題が生じる可能性もあります。
ところで、従来から歯科領域では舌小帯短縮症が歯列発育に影響を与えるとの意見もございますが、その科学的根拠は提示されておりません。
歯科領域では舌を出すとハート型になる舌小帯短縮症は手術の適応とされてきましたが、言語治療の統計研究の結果や摂食機能の発達完了期が2.5~3歳であることを考えますとこの時期での手術の必要性はありません。
幼児期は構音能力が発達する時期なので、舌小帯短縮症があって構音障害を認められる場合でも、経過観察とさせていただくか、状況によって3歳以後に言語治療を実施しますが、手術の必要性はありません。
構音能力の発達完了期の5歳時になお構音障害がある場合は手術の必要性があるか否かを判断します。ただし、舌小帯短縮症による機能障害(構音障害、摂食機能障害)がいじめや劣等感などの原因になっていると判断される場合には比較的早期(3~4歳)に手術の検討が必要になる場合があります。
言葉の発達に舌小帯の異常がどれくらい関与しているかを見極めて、対処を検討するというのが現在の望ましい対応と考えられますので、小児科、耳鼻科等の関連他科や言語療法士等の専門職の方々との連携も大切になってまいります。歯科として立場をふまえて十分なサポートをさせていただけると幸いです。
今後とも横山歯科・矯正歯科医院をご愛顧のほど宜しくお願いいたします。
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