よこやま通信 NO.195
歯肉を押すと、歯と歯肉の間から白い膿のようなものが出てくる
事があります。特に痛みを訴えることもないのですが、これは
どの様な状況でしょうか?
歯は歯槽骨という顎の骨の中に植立していますが、歯の根と
歯槽骨が直接接しているわけではなく、歯根膜という線維性の
結合組織からできている網が根と歯槽骨の間に介在し、歯槽骨
と歯をつないでいます。つまり歯は、歯槽骨という骨で出来た
ソケットの中に張られた網の上に乗ているということになります。
では、この歯根膜という組織は何をしているかというと、
歯にかかる力が直接、歯槽骨にかからないように、クッションの
役割をしているのです。
噛む力は男性で60kg、女性でも40kgくらいで、なかには
100kgを超す人もいます。そのような強い力が歯根膜という
クッションもなく直接顎の骨にかかるとどうなるのでしょうか。
当然痛みが生じ、ひどくすると、顎の骨や歯が折れたり、歯
自体がソケットから抜けてしまったりしてしまいます。
また、歯根膜は年齢や歯周炎の進行とともに、弾性が失われ、
また減少していきます。
そのため歯周病が進行した状態では、強く噛むと、痛みや
動揺が生じるようになるので、強く噛むことが出来なくなって
しまうのです。
一方、歯根膜には毛細血管やリンパ球などが含まれ、歯の周囲の
感染防御の場にもなっています。歯は歯肉とぴったりとくっついて
いる訳ではないので、歯の周りにはどうしても歯と歯肉の間の溝
(歯周ポケット)が生じてしまいます。
このため、この歯周ポケットには多くの口腔内の細菌と食物残渣
などが溜まってしまうのです。
これらの細菌は細菌の塊である歯垢を形成し、さらに増殖していき
ますが、通常、健康で免疫力が十分あるときには、歯根膜や歯肉の
感染防御機構が働くため、とくに炎症が生じることはありません。
しかし、歯周ポケットが深くなり、免疫力を超えた多量の細菌の
塊が出来てしまったり、体調が悪く免疫力が低下したりすると、
歯周ポケットの内の細菌が増殖し、歯周病が急性化して、痛みや
腫脹を発現することになるのです。
歯の周りから白い膿のようなものが出ている状態というのは、
歯の周りの免疫組織が歯周ポケット内の細菌に勝っていて
炎症が起きず、細菌の死骸が白い膿となって、歯肉から押し
出された状態ということになります。
しかし、白い膿が出てくるということは、同部位には深い
歯周ポケットがあり、その中に歯垢や歯石が存在している
ことを意味します。同部位には、歯科専門職による歯石除去
や歯周ポケット内への抗菌薬などの薬剤の注入などの歯周治療
と、毎日の歯周ポケット内に対する慎重なブラッシング、
また含嗽薬を用いた科学的消毒を適宜行う必要があるという
ことになります。
また、深い歯周ポケットが出来てしまっている場合は、
歯周ポケットを浅くするといった手術が行われることも
あります。
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