よこやま通信 No.172(2)
サホライドが世界を救う。
今から約半世紀前の日本では、歯科医院での治療が追いつかないほど子どもの虫歯が蔓延していました。
当時、虫歯進行を抑える塗布剤として活用されていたのが「サホライド」です。その薬剤が現在、かつての日本と同じように子供の虫歯が社会問題となっている国々で、多くの子どもを救っているのです。
サホライドとは進行の速い乳歯の虫歯の進行を抑えるために使われる薬剤です。虫歯になっているところに塗るとそこが黒くなります。
とても優れた効果のある薬ですが、日本ではやはり「黒くなる」点が敬遠され、最近では重度の虫歯が多数あるようなお子さん以外には使われなくなっています。
ですが、世界の国々ではかつて日本と同じように子供の虫歯が蔓延しているのです。例えば、インド、モンゴル、インドネシア、、。それに先進国アメリカでも貧困層の子どもたちの虫歯が社会問題となっています。こうした状況で塗るだけでよく、虫歯進行抑制の効果が高いサホライドが虫歯対策の手段として脚光を浴びているのです。
サホライドはなぜ「虫歯進行抑制」の効果が高いのか。
その理由は、サホライドに含まれる成分にあります。
サホライドというのは商品名で、「フッ化ジアンミン銀」という成分が含まれています。これは「フッ素」と「銀」と「アンモニア」から成ります。
フッ素には、唾液による歯の修復(再石灰化)を促し、同時に歯の結晶を強くする作用があります。フッ化ジアンミン銀のフッ素濃度は約5万5000ppm。一般的なフッ素入り歯みがき剤(950~1450ppm)、歯科でのフッ素塗布剤(9000ppm)をはるかにしのぐ濃度です。
次に、銀というのは強力な殺菌・抗菌作用があるので、塗布したところの虫歯菌を攻撃し繁殖を抑えることで虫歯の進行を抑制するわけです。
そして、アンモニアは、銀とフッ素を安定化させるために添加されています。
ただサホライドの虫歯進行抑制効果が強いとはいえ、塗ればその後何もしなくてよいというわけではありません。
しっかりと歯磨きしないと虫歯はいずれできてしまいます。
その歯磨きの仕方の改善に役立つのが、意外にも「黒くなる」というサホライドの性質です。歯科は健康だけではなく審美性にも尊ぶ分野ですので、黒く変色することは、最初は欠点と考えていました。しかし現在は、重度の虫歯ができているお子様や保護者の方には虫歯を理解していただく助けになると考えらえています。
虫歯がどこにできているかは患者様にはわかりにくいですが、サホライドを塗って黒く色が変われば「ここが虫歯だ!」と気づいていただけます。この虫歯をフッ素入り歯みがき剤で歯磨きをすることで変色した部分が黒光りするぐらいになれば虫歯の進行が止まったサインです。このように予防の仕方を学ぶこともサホライドによって可能になるのです。
先進国アメリカでは、フッ化ジアンミン銀は「子どもをドリルから解放した」「全身麻酔から解放した」と大きく評価されています。日本と異なりアメリカでは、虫歯の治療は全身麻酔下で行われるのが普通です。というのも、まだ歯医者さんに慣れていない子が泣きながら治療を受けるのは「虐待」と訴えられる恐れがあるそうです。全身麻酔は費用もかかりますが、何より子どもの体に負担をかけます。そのため、塗るだけで済むフッ化ジアンミン銀がもてはやされているのです。
また同国には日本のような国民皆保険はなく医療費が高いため、経済的な事情から通常の治療を受けられない子どもには、まずフッ化ジアンミン銀で虫歯の進行を止めるために使われるようです。
サホライドは白い歯が、黒く変色してしまうので、敬遠される方が多いですが、乳歯の治療においてはメリットも多くあるので、選択肢の一つとして考えてみて下さい。
東洋製薬化成株式会社 https://www.toyo-hachi.co.jp/products/medicine.php?code=19
ライオン 「虫歯を防ぐフッ素の働き」https://clinica.lion.co.jp/oralcare/fluorine.htm
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